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2014/03/11

No. 0 序章

オシロスコープ入門

CQ出版社発行の電子工学の専門書「オシロスコープ入門」では、初心者を対象に、オシロスコープの基礎知識やその操作などに関して、平易な言葉で易しく説明しています。しかし、紙面の都合で省略したり、詳しく説明しなかった事柄も多々ありました。

オシロスコープ入門
CQ出版社発行
ISBN4-7898-1189-1
これまでも、多くの方からご意見やご質問を頂き、その都度、個々にお応えしていますが、それは一対一での対話でしかなく、多くの方への対応が出来ないでいました。

今回、それらを補完する意味も含め、この「ブログ」では初心者を対象に、改めて、オシロスコープの基礎知識やその操作などに関する新たな情報を提供していきます。

著書「オシロスコープ入門」では、サブタイトルとして「電気に弱い人にもわかる2現象オシロの簡単操作ガイドブック」として、これからオシロスコープの操作を習いたい人、使い始めて間もない人、あるいはみようみまねで取りあえず使っている人々など、いわゆるビギナーを対象にオシロスコープの使い方を説明しています。

それ故、オシロスコープがどのような仕組みで動作しているかなど、ここでは細かく説明していません。オシロスコープそのものはブラック・ボックスであっても、オシロスコープの操作の習得に支障はありません。
オシロスコープ (Oscilloscope)
どのようにすれば波形の観測ができるのか?、交流電圧や周波数を求めるには?精度の高い測定方法は?など、実践的な内容に重点をおいています。

理系の人でないと理解し難いオームの法則やデシベルなど、電気の専門知識が必要な記述は使わず、文系の人にも理解しやすいように別の表現に変えたり、オシロスコープの操作の習得に限れば、急いで知る必要もないと思われるものはあえて省略しました。

以下は本書の章タイトルですが、ぜひこの機会にお読み頂きプロフェッショナルへの道を目指して頑張ってください。

「オシロスコープ入門」 CQ出版社発行 ISBN4-7898-1189-1

第 1 章 波形と電圧との関係
第 2 章 ブラウン管の基礎知識
第 3 章 オシロスコープの動作原理
第 4 章 ノブ(つまみ)やスイッチの説明
第 5 章 オシロスコープの操作方法
第 6 章 2現象オシロスコープの操作方法
第 7 章 オシロスコープの基本測定
第 8 章 リサジュー図形の仕組み
第 9 章 プローブ (Probe)
第 10章 測定時の誤差
第 11章 スキルアップ・テクニック
第 12章 FAQ (よく聞かれる質問)
第 13章 定格の読み方
第 14章 オシロスコープの用語集
インデックス
Appendix 遅延掃引(Delayed Sweep)

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このブログ以前に、公開している私の同名のホームページ「オシロスコープ入門」があります。ご興味のある方は「ここ」へアクセスしてご覧ください。
なお、この「オシロスコープ入門」の記述内容に関するご意見ご質問などがありましたら、このブログの Gmail 宛てか、上記ホームページにも私宛の Mailtoがありますので、ご利用ください。
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「オシロスコープ入門」  増刷!
2015年2月に第14版が発行されました。書店経由で入手出来る最後のチャンスかも?

No. 1 習うより慣れろ・・・・

習うより慣れろ・・・・

「オシロスコープ入門」は、初心者を対象にしているので、難解な回路構成や信号処理にはあえて触れず、オシロスコープの概念と基本的操作、使い方に絞ってやさしく解説しています。

オシロスコープ入門
CQ出版社発行
ISBN4-7898-1189-1
オシロスコープのハードウェアの説明よりも、どのように操作すればオシロスコープの機能を100パーセント活用できるのかを説明することにウエイトをおいてます。ぜひ、皆さんも本書を片手にオシロスコープを操作してみてください。
習うより慣れろ・・・・意外に簡単であることがわかってくると思います。

「オシロスコープ入門」でマスターすることはオシロスコープのベーシックですから、その基本的な考え方は将来も変わることはありません。今後、皆さんのオシロスコープによる測定技術の向上に少しでもお役に立てば幸いです。

これ以降は「ブログ」的なスタイルで初心者を対象にオシロスコープのアレコレをアップしていきたいと考えています。ブログ故に、私の思いつくまま、あまり順序立てた構成にはなりませんが、オシロスコープを使う上でのヒントになればと思っています。

No. 2 オシロスコープとは

オシロスコープ (Oscilloscope) とは

オシロスコープとは、時間の経過と共に電気信号(電圧)が変化していく様子をリアルタイムでブラウン管に描かせ、目では見ることのできない電気信号の変化していく様子を観測できるようにした波形測定器です。
オシロスコープ (Oscilloscope)
このブラウン管は、ドイツ人のブラウン(Karl Ferdinand Braun)が、大学の学生に電流の波形を見せるための教材として1897年に試作した陰極線管(Cathode Ray Tube)が原型とされ、今では彼の名前で広く呼ばれるようになりました。

今はプラズマや液晶画面が主流ですが、少し前までテレビジョンに多く使われていたブラウン管は、オシロスコープのものとは仕組みが異なりますが、ルーツを遡れば同じ所へ行き着きます。

オシロスコープは、このブラウン管上の輝点の動きの速さや振れの大きさを測ることで、間接的に電気信号の電圧の時間的変化を簡単に測ることができます。

ですから、測定しようとする現象が電圧の形に変換できれば、電気信号の変化だけでなく、温度、湿度、速度、圧力・・・・など、色々な現象の変化量を測ることができます。

また、メータ類と大きく異なるところは、単にその電圧の平均的な値を測るためのものではなく、電圧が変化していく様子を時々刻々と目で追いかけたり、突発的に発生する現象も捉えることができます。

しかも、非常に高い周波数の電気信号の変化もブラウン管に描くことが可能で、エレクトロニクス分野のエンジニアには必携の波形測定器として重宝がられています。

 

No .3 テスターでは50Hzや60Hz程度の交流電圧は測れるが、速く振動する交流は測れない

テスターでは 50Hzや 60Hz程度の交流電圧は測れるが、速く振動する交流は測れない」

私たちの身の回りには、直流と交流があります。
直流といえば、私たちの身近にある家電製品の多くに使用される乾電池があります。自動車には充電可能な蓄電池が積まれています。
その電流が流れる向きは常に一定で、直流電圧はテスターを使えば誰でも簡単に測ることができます。

一方、交流は電流の流れる方向が交互に入れ替わるもので、身近な例では、家庭で使用される商用電源 100V (東日本では 50Hz、西日本では 60Hz) がそれにあたります。

50Hzの場合は、1秒間に 50回それを繰り返すわけで、仮にとても動きが軽くゼロの目盛が中心にあるメータで測れば 1秒間に 50回の割でその指針が左右に振れることになります。

しかし、現実にはこのようなメータはありませんし、仮にあったとしても私たちにはその動きを目で追うことはできません。

一般家庭に入っている交流を「100V」とテスターで測っていますが、実は瞬間瞬間で電圧が変わるこの交流電圧を、エネルギー的に等価な直流電圧に置き換え、その時に測った電圧値を「実効値」と定義しています。

一般家庭に入っている交流を「100V」と言うのは、この実効値でのことです。しかし、オシロスコープでその波形を見ると、正弦波として見えて、波形の最大になる点(最大値と言います)が約 141V であることがわかります。

ですから、テスターでは、常にその電圧値が高速で変化している交流(あるいは高周波)の瞬間瞬間の値を測ることは不可能なのです。

そこで、考案されたのがオシロスコープです。
オシロスコープは「電圧」の「時間的な変化」をブラウン管上に波形として描き観測するための測定器です。

余談ですが、
数式で言えば、「実効値」のルート2倍(約 1.414倍)が「最大値」になります。ただし、これは正弦波の時に限ります。念のため。
また、私たちの家庭で使用している 100Vもそうですが、交流電圧では断りのない限りその電圧値は「実効値」です。

No. 4 ブラウン管の基礎知識

「ブラウン管の基礎知識」

オシロスコープは、ブラウン管を使用して電圧の変化を時間を追って私たちの目に波形として見えるようにして、その振幅や時間的に変化していく様子を測ることを目的にした波形測定器です。

オシロスコープ
■ブラウン管の種類
オシロスコープの心臓部にあたるブラウン管は、テレビのブラウン管とはその仕組みが少し異なっています。
オシロスコープに用いられているブラウン管は静電偏向形で、テレビに用いられている電磁偏向形と原理的には同じですが、内部を高速で移動する電子ビームを偏向(曲げる)する方法が大きく異なります。

■電磁偏向形ブラウン管
電子の偏向(曲げる)角度が大きく取れるので蛍光面が広く、テレビ用のブラウン管として適していますが、高い周波数には対応できないのでオシロスコープにはほとんど使用されていません。

■静電偏向形ブラウン管
この方式は偏向(曲げる)角度が電磁偏向形のブラウン管より小さいため、ブラウン管の蛍光面サイズも75 mmから150 mm位までが実用サイズのようです。しかし、この静電偏向形は高い周波数にも対応しているのでオシロスコープに適しています。

No. 5 静電偏向形ブラウン管の構造

「静電偏向形ブラウン管の構造」

静電偏向形ブラウン管は、電磁偏向形ブラウン管に比べ胴回りがスリムなボトル・タイプの形状で内部は真空状態になっています。
その底面が蛍光面 (波形が描画される面)、胴体部分がコーン部、首に近い部分がネック部と呼ばれています。
蛍光面は長方形が主流になっていて、注ぎ口に相当する部分はソケットで、電気回路へ接続するピンが付いています。また、一般的な内部構造は、下図のように

■ 電子銃部(ガン)
■ 偏向部(ヨーク)
■ 蛍光面(スクリーン)

の三つの部分で構成されています。これらをボトル・タイプのガラスの容器に納め、その内部を高い真空状態に保つことで、電子が飛び出し易い空間を形成しています。
大雑把に言えば、このブラウン管は、電気信号を波形として私たちの肉眼で見られるような形に変換してくれるマジック・ボックスと言ってもよいでしょう。

次に、このブラウン管の内部構造について、電子銃部(ガン)、偏向部(ヨーク)、蛍光面(スクリーン)の順にそれぞれ説明していきます。

No. 6 ブラウン管の構成とその機能

「ブラウン管の構成とその機能」

ブラウン管の内部は、大別すると、電子銃部(ガン)、偏向部(ヨーク)、蛍光面(スクリーン) の三つの部分から構成されています。


■電子銃部 (ガン)
これは蛍光面に細く集束された電子ビームを高速度で衝突させるための電極部分です。通常はガン (Gun・・・・銃の意味)と呼ばれ、電子を発射することに由来して名付けられた様です。電子銃部は、ヒータ、カソード、第1グリッド、第2グリッド、第1陽極、第2陽極などにより構成されています。

■偏向部 (ヨーク)
カソードから放射された電子ビームはいくつかの電極の働きで集束され蛍光面に衝突し輝点となって見えるわけですが、観測する交流の波形を描かすには、何らかの方法でこの輝点を蛍光面上で動かす必要があります。
この電子ビームを動かす働きをするのが電子銃部と蛍光面の間にある偏向部です。
静電偏向形のブラウン管は、電子銃より前方のネックに近い位置に偏向板が2組配置されていて、この偏向板に加える電圧を加減することにより電子ビームの進行方向を上下左右に変えることができます。

■蛍光面 (スクリーン)
ブラウン管の蛍光面 (スクリーン) は言うまでもなく波形が描かれる部分です。長方形のこのスクリーン部は、対角寸法では130 mm〜150 mmが一般的で透明なガラス材の内側に蛍光物質が均一に塗布してあります。
この蛍光物質にも、発光色、輝度、残光時間など、それぞれに特徴があり用途によって使い分けられています。電子銃から飛んできた電子ビームが高速でスクリーン内側の蛍光面に衝突して緑色や青白色に発光します。

No. 7 垂直偏向板に直流電圧を加え電子ビームの進行方向を曲げる

「垂直偏向板に直流電圧を加え電子ビームの進行方向を曲げる」

直流電圧を垂直偏向板に加えたら、輝点はどのように動くでしょうか?

垂直偏向板に電圧を加えない時には、電子ビームは直進しますが、上の偏向板にプラスの電圧を加えるとどうなるでしょうか?

上下の偏向板の間に電位差が生じ電子はマイナスの電荷を帯びていますから、電子の寄り集まった電子ビームは上の偏向板の方向へ引っ張られ進行方向が上の方へ曲げられます。

反対にマイナスの電圧を加えるとどうなるでしょうか?分かりますね、前と反対にマイナスとマイナスで反撥して逆の方向(下の方向)へ曲げられてしまいます。

どちらの場合も電子ビームの進行方向が変わりますから、蛍光面に到達した時には、電圧を与えなかった時の位置(蛍光面の中央部)から上の位置または下の位置に衝突して発光するわけです。

では、直流電圧を水平偏向板に加えたら、輝点はどのように動くでしょうか?

No. 8 水平偏向板に直流電圧を加え電子ビームの進行方向を曲げる

「水平偏向板に直流電圧を加え電子ビームの進行方向を曲げる」


直流電圧を水平偏向板に加えたら、輝点はどのように動くでしょうか?

同じように、水平偏向板(X軸偏向板)にプラスの電圧を加えると、その偏向板の方向へ電子ビームは曲げられ、マイナスの電圧を加えれば反対の方向へ曲がります。

では、交流電圧を垂直偏向板に加えたら、輝点はどのように動くでしょうか?

No. 9 交流電圧を垂直偏向板に加えたら、輝点はどのように動くか?

「交流電圧を垂直偏向板に加えたら、輝点はどのように動くか?」

交流電圧を加えるとどうなるでしょうか?

交流電圧も瞬間瞬間ではある電圧(瞬時値)を示すわけですから、例えば、50 Hzの交流電圧を垂直偏向板に加えると、毎秒50回周期的に電圧が増減を繰り返します。


直流電圧を加えた時には輝点の位置が移動するだけでしたが、交流電圧で、蛍光面の輝点も電圧の変化に追従して上へ下へと往復を繰り返し、私たちには輝点の動きではなく1本の明るく光る線(輝線)として見えます。

この交流電圧を下げていくと輝線は短くなり、逆に電圧を上げていくと輝線は長くなり、輝線の長さは偏向板に加える電圧に比例しています。